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そのとき、会社が動いた。

最初の商品は、パスタだった

ベースフードがパンの会社になるまで

ベースフードの転機を、公開情報からたどります。

2016年。自宅の部屋で、ひとりの会社員が家庭用の製麺機を回していました。

動画サイトで「麺の作り方」を調べ、近所のスーパーで乾物を買ってきては試す。煮干しとココアはまずい。大麦若葉をこの配合にすると、麺がつながらない。試作は1年で100回を超えました。

作ろうとしていたのは、1食で1日に必要な栄養の3分の1がとれる麺です。名前は「BASE PASTA」。この麺をつくるために、彼はまもなく勤め先を辞め、ベースフードという会社を起こします。

それから10年。いま、ベースフードの売上は150億円を超えています。ところが、その大半を稼いでいるのはパスタではありません。2023年2月期、自社の通信販売で売れた商品のうち、パンが90.3%を占め、パスタは3.0%でした。

麺をこねるところから始まった会社が、なぜパンの会社になったのでしょうか。しかも、そのパンの案は、社長より先に社員から出てきたといいます。

主食を変えれば、栄養は変わる

創業者の橋本舜さんは、2012年に大学を出て、IT企業のDeNAに入りました。

忙しい毎日でした。居酒屋やファストフードなどで食事を済ませることが多く、栄養のことを考える暇はなかった、と橋本さんは振り返っています。体のことを考える人は、サプリやスムージーで栄養をとっていました。

ここで橋本さんは、発想を逆にします。足りない栄養を、別の何かで足すのではない。毎日、誰もが食べているものの方を変えればいい。

「大半の人に馴染みがある主食で必要な栄養素が補えたらどうだろう?」

橋本さんは、当時の問いをそう語っています。別の取材では、前の仕事で日本の医療費を抑える必要を知り、健康で長く暮らせることが大切だと感じた、とも話しています。

主食なら、ご飯でも、パンでも、麺でもよかったはずです。最初に選んだのは、麺でした。思い描いたのは「大人の給食」のような姿。食べる人の側から考えて、麺に焦点を当てたのです。

この「主食」という言葉は、覚えておいてください。会社の行き先を決めることになります。

1年、自室で麺をこねる

2016年1月、橋本さんは自宅で試作を始めます。4月には会社を辞め、ベースフードを設立しました。

工場は持ちません。店も構えません。製麺所を買うことも、自分で売り場をつくることもせず、つくるのも売るのも外に頼む前提でした。手持ちの資金が尽きることは避けなければならないし、家族にも迷惑はかけられない、と橋本さんは語っています。

会社を起こした半年後の2016年10月には、BASE PASTAのクラウドファンディングを始めています。商品ができる前に、欲しい人がいるかを確かめる。小さな会社らしい順番でした。

それでも、いちばん多く使ったのは、時間でした。

栄養学の専門書を何十冊も買って読み、栄養士の友人の助言を受けながら、家庭用の製麺機で試作を重ねる。「近所のスーパーで乾燥食品を買って100回以上試作しました」と、橋本さんは語っています。煮干しとココアはまずい。この配合だと麺がつながらない。そうした失敗を、ひとつずつつぶしていきました。2016年1月からのおよそ1年で、試作は100回を超えています。

28歳の会社員が、勤め先を離れ、自分の部屋で麺をこねる。売れるかどうかは、まだ誰にもわかりません。その1年は、焦りと不安が募る日々だったと伝えられています。支えになったのは、製麺の業者や料理人といった、外の応援団でした。

2017年2月。BASE PASTAは、Amazonで売り出されました。

大手の食品会社のような流通の網は持っていません。だから、まずはネットで売る。小さな始め方でした。お金もなかったので、知り合いのレストランを借りて、記者向けの試食会を開いています。

そこで、ひとつの記事が火をつけます。ウェブメディアに載った紹介がSNSで広まり、BASE PASTAはAmazonのカテゴリー別の売上ランキングで1位になりました。そのとき社員は、橋本さんを入れて2人。1位を、2人で喜び合ったといいます。

「人間、1年間一つのことに集中したら結構なレベルのところまで到達できるんだな」

橋本さんは、そう振り返っています。

2017年5月には自社の通信販売も始め、10月にはBASE PASTAがグッドデザイン賞を受けています。2018年8月には、アメリカで売るための会社も設けました。

ただ、ランキングの1位も賞も、会社の大きさとは別の話です。2019年2月期の売上は、1億6,632万円。最終的な損失は1億6,465万円でした。売上とほぼ同じ額の赤字。使ったお金は、売れた額のおよそ2倍だったことになります。

社員が先に、パンを焼いた

パスタの発売から2年。2019年3月4日、ベースフードは2つめの商品を出します。完全栄養のパン「BASE BREAD」です。2個で1食。1日に必要な栄養の3分の1がとれ、値段は390円でした。

パンは、パスタより難しい商品でした。麺と違って、パンには発酵の技術がいります。26種類の栄養素を練り込んだ生地を、パンとしておいしく焼き上げなければならない。開発の難度は、パスタよりさらに高かったのです。

そのパンの案は、社員から出てきました。

橋本さんより先に、社員から試作品が提案された。橋本さんは、そのことが嬉しかったといいます。ひとりで1年、麺をこねて始めた会社に、自分より先に次の一手を出す社員がいた。社長にとって、それは商品が一つ増える以上の意味を持つ出来事だったはずです。

もっとも、パンは橋本さん自身が食べたかったものでもありました。もともと朝はパン派。栄養を学ぶうちに、いつも食べているパンの栄養の偏りが気になるようになったのです。

「栄養のことを気にせずにパンを食べたいなと思って、開発したんです」

発売の直後、橋本さんはこう語っています。このとき社員は12人。IT企業から来た30歳前後の人が中心でした。「ある程度おいしく作るところまでは自分でやって、そこからは食品のプロと一緒に仕上げていきます」。パンでも、パン屋で修業した人と組んで、商品を磨いていきます。

ここで大事なのは、パンが、会社の最初の問いから外れていなかったことです。橋本さんが変えたかったのは、パスタではなく「主食」でした。日本の朝の食卓で、パンは間違いなく主食の一つです。商品は変わっても、問いは変わっていません。

数字が、向きを教えた

パンを出してから、数字の伸び方が変わります。

2019年2月期に1.7億円だった売上は、2020年2月期に4.2億円、2021年2月期に15.2億円、2022年2月期に55.5億円。そして2023年2月期には98.6億円になりました。4年で、およそ59倍です。

ベースフードの売上高と経常損益の推移(2019年2月期〜2026年2月期)

そのあいだに、売り方も広がっていきます。2020年11月に薬局、2021年1月にジム、2021年3月には関東のコンビニの棚にBASE BREADが並びました。2023年6月には、コンビニでの販売が全国に広がります。

ここで、パスタとパンの違いが効いてきたと私は見ています。パスタは、基本は鍋で湯を沸かして茹でる食べ物です。パンは、袋を開ければそのまま食べられます。薬局の棚にも、ジムの受付にも、コンビニのパンの棚にも置ける。朝の通勤の途中でも、仕事の合間でも口にできる。忙しくて栄養のことを考える暇がなかった、という創業者自身の悩みに、より近い答えになっていたのは、パンの方だったのです。

一方、自社の通信販売では、4週間に1回届く定期購入が注文のおよそ98%を占めるようになりました。2022年2月には、月の定期購入者が10万人を超えました。同じ月、初めてのテレビCMを福岡で流しています。2023年2月の時点で、定期購入の会員は16.3万人です。2022年11月には、東京証券取引所のグロース市場に株式を上場しました。創業から6年7か月でした。

そして、商品の中身がはっきり傾きます。2023年2月期、自社の通信販売の売上のうち、BASE BREADが90.3%、クッキーが6.6%、パスタが3.0%。会社を起こした商品は、売上の30分の1ほどになっていました。

自社ECの商品別の売上構成(2023年2月期と2026年2月期)

店に並べる仕事は、自分たちだけでは回りません。2023年2月期、いちばん大きな取引先は伊藤忠商事で、その売上は13.5億円でした。自室で始めた会社の商品が、商社を通じて全国の棚に運ばれていく。2021年6月にはクッキー、2023年2月には料理のシリーズと、パン以外の商品も増やしていきます。

つまり、ベースフードは、パスタをやめたわけではありません。パスタはいまも売っています。けれど、会社を大きくしたのは、2番目に出した、社員発のパンでした。

払ったもの

伸びには、お金がかかりました。

2022年2月期、売上は55億円を超えましたが、経常損失は4.6億円。2023年2月期は売上98.6億円に対して、経常損失は9.9億円。2024年2月期も、売上148.7億円で、経常損失は8.9億円でした。新しいお客様を増やし、名前を知ってもらうために、ネット広告やテレビCMに大きく投じたことが、損失の理由だと会社は説明しています。

売上は伸びるのに、赤字も大きくなる。上場した会社にとって、それは苦しい時期だったはずです。

人も一気に増えました。臨時雇用を除く従業員は、2021年2月期の15人から、2022年2月期に37人、2023年2月期には108人。2年で7倍です。2024年2月期の128人をピークに、2026年2月期には98人まで減っています。

手放したものもあります。2018年に設けたアメリカの会社は、2020年5月に清算を終えました。海外での販売は、のちに香港や中国、シンガポール、台湾、そして2025年にはアメリカと韓国で、あらためて始めることになります。

橋本さんは、創業のころについて「創業当時はビジネスとしてはもう少し苦労すると思っていました」と語っています。在庫を持たないIT企業ではないので、IT企業のような伸び方は難しいだろうと考えていた、とも。食べ物は、つくって、運んで、置いておかなければなりません。2021年には神奈川県座間市と京都府向日市に、自社の倉庫を開いています。

2025年2月期、会社は上場してから初めて黒字になりました。売上152.4億円、経常利益1.2億円。2026年2月期は、売上151.9億円で、経常利益は2.7億円に増えています。自社の通信販売は100億円を超えましたが、卸の売上は、店の棚での置かれ方が変わったことなどで減りました。伸び続けた10年の後で、いまは足場を固める時期に入っています。

主食は、パンだけではない

この会社は、パンの会社になったあとも、主食を広げ続けています。

2024年4月にはパンケーキの粉と焼きそば。2025年1月には焼きそばをシリーズにし、2025年10月にはラーメンを出しています。2026年2月期、自社の通信販売の売上のうち、BASE BREADは85.8%。焼きそばとラーメンを合わせて10.8%になりました。パンの割合が、少しずつ下がり始めています。

売る相手も広がっています。2024年10月には農林水産省の研究開発の支援事業に採択され、2025年10月には、会社が社員の食事を支える福利厚生として、法人向けのサービスを本格的に始めました。一人ひとりの台所に届けてきた主食を、今度は会社の単位で届けようとしているのです。

麺から始まり、パンで伸びた会社が、ふたたび麺に力を入れている。けれど今度の主役は、パスタではなく、焼きそばとラーメンです。

累計の販売数を見ると、伸び方の変化がよくわかります。2022年6月に5,000万袋。2023年3月に1億袋。2024年6月に2億袋。そして2026年3月に3億袋を超えました。1億袋から2億袋までは1年3か月、2億袋から3億袋までは1年9か月。急な坂は、なだらかな坂に変わりつつあります。

そのかわり、お客様は離れにくくなりました。2026年2月期の定期購入の会員は23.5万人。前の月に定期購入していた人のうち、その月に解約しなかった人の割合を示す継続率は、96.5%です。累計の会員数は、2025年11月に100万人を超えています。

社史の目で見ると

麺をこねるところから始まった会社が、なぜパンの会社になったのか。

私の見方は、こうです。ベースフードが最初に決めたのは、商品ではなく問いでした。「主食で栄養を補えないか」。パスタは、その問いへの最初の答えにすぎません。だから、2つめの答えであるパンが大きく売れたとき、会社は迷わずそちらに力を移すことができたのだと思います。もし最初に決めたのが「完全栄養のパスタをつくる会社」だったら、パンは脇役のまま終わっていたのではないでしょうか。

この会社の社史に残すべき場面は、三つあると考えます。

一つめは、自室での1年です。100回を超える試作、煮干しとココアの失敗、製麺機。いまの150億円からは想像しにくい始まりです。けれど、外に頼んでつくるという会社の形も、主食という問いも、この1年に決まっています。

二つめは、社員が先にパンを出した日です。社長がひとりで始めた会社が、社員の案で大きくなる。年表には「2019年3月、BASE BREAD発売」としか残りません。誰が最初に試作を持ってきたのか、そのとき社長は何を感じたのか。それを書き残せるのは、まだ当事者がそろっている、創業10年のいまです。

三つめは、赤字が大きくなった3年間です。成功した商品の話だけを並べると、黒字は自然に来たように見えます。けれど実際には、売上が伸びるほど損失も膨らんだ時期を、会社はくぐり抜けています。何にお金を使い、何をあきらめたのか。それは、次に大きく賭ける日の判断材料になります。

最初の商品は、パスタでした。いま、会社の売上のほとんどはパンです。それでも、会社の真ん中にあるものは、2016年の部屋の中から変わっていません。主食を変えれば、栄養は変わる。その一つの問いが、10年かけて形を変えながら、ここまで来たのです。

あなたの会社の「そのとき」は、いつでしたか。

会社の歩みを、その理由まで読めるかたちで残しておきたい方は、KATARUの読みもの(https://kataruai.com/shiryo/)もあわせてご覧ください。

参考にした公開情報

連載「そのとき、会社が動いた。」は、公開情報で読む、あの会社の社史です。

※この記事は公開情報をもとにKATARUが独自にまとめたもので、ベースフード株式会社とKATARUの間に関係はありません。

この記事は、noteの連載「そのとき、会社が動いた。」にも掲載しています(noteで読む)。

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公開日:2026年10月16日 KATARU(運営 ミダスマーケティング)