誰に話を聞くか
社史の取材は、経営者、先代、古参社員、OB・OG、取引先の5つの立場から話を聞くと、会社の歩みを複数の視点で確かめられます。経営者と先代からは判断の理由を、古参社員とOB・OGからは現場の場面を、取引先からは外から見た会社の姿を聞く、という分担が基本です。同じ出来事を別の立場の人に聞くと、記憶の食い違いに気づけるという利点もあります。
| 相手 | 主に聞けること | 使う章や要素 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 経営者 | いまの方針、近年の転機、これからの考え | トップの言葉、近年の章、これからの話 | 多忙なため、日程を企画の段階で押さえます |
| 先代・創業者 | 創業のきっかけ、判断の理由、選ばなかった道 | 創業の章、転機の章 | 体調や負担に配慮し、1回のテーマを絞ります |
| 古参社員 | 現場の様子、仕事のやり方の移り変わり | 各時代の場面、事業と製品 | 上司が同席すると話しにくくなる場合があります |
| OB・OG | 在職していた時代の出来事と空気 | 過去の時代の章、人と組織 | 連絡先が分からないことが多いため、早めに探します |
| 取引先 | 付き合いの始まり、外から見た会社の強み | 転機の章、寄稿やコメント | 掲載の範囲と社名の扱いを、先に相手先と確かめます |
何人に話を聞くかは、社史の型と分量によって変わります。社員の声を多く載せる型では、話を聞く人数も増えます。どの要素を載せるかは、社史に何を書くかで整理しています。
取材の前の準備
取材の準備は、「年表の下書き」「資料の確認」「質問の送付」の3つが中心です。準備をしてから臨むと、当日は話を聞くことに集中でき、限られた時間で深い話まで進めます。
年表を先に作る
登記、決算書、社内報などから、分かる年と出来事だけを並べた年表の下書きを作ります。空欄が残っていて構いません。空欄こそが、取材で聞くべきところです。年表を取材の場に持ち込むと、話し手が「この年はこうだった」と記憶をたどりやすくなります。年表の作り方は、社史の年表の作り方で解説しています。
資料を見ておく
昔の写真、会社案内、新聞記事などに目を通し、聞き手が会社の基本を知った状態で臨みます。資料で分かる事実を取材で一から聞くと、時間がそれだけで終わってしまいます。写真は取材の場で見せると、話のきっかけになります。資料の探し方は、社史の資料集めにまとめています。
質問を送っておく
主な質問を、数日前までに話し手へ送っておきます。話し手は前もって思い出したり、資料を探したりできます。送るのは質問の全文でなくても構いません。「今回は創業から最初の10年について伺います」のように、テーマと聞きたいことの柱を伝えるだけでも効果があります。あわせて、録音してよいかどうかも、このときに尋ねておきます。
1回の時間と回数の考え方
1回の取材の長さと回数に、決まった正解はありません。次の点を考えて決めます。
- 話し手の負担:長時間の取材は、話し手も聞き手も疲れ、後半の話が浅くなりがちです。休憩を挟む、テーマごとに日を分けるといった工夫をします。
- 聞く範囲:1回で扱うテーマを一つに絞ると、時間の見通しが立てやすくなります。歩みの長い会社ほど、回数は増えます。
- 役割:判断の理由を深く聞く経営者や先代には複数回、場面や一言を聞く社員には短い1回、と相手によって変える方法があります。
- 締め切り:発行日から逆算して、取材にあてられる期間を先に決めます。全体の期間の考え方は、社史の作り方:流れと期間の目安をご覧ください。
先代への聞き取りの段取りは、代替わりの前に、先代から聞いておくことで紹介しています。
質問の作り方
社史の取材の質問は、「事実」「理由」「気持ち」の順に重ねると、判断の理由と人柄が伝わる話を聞き出せます。いきなり気持ちを尋ねるよりも、答えやすい事実から入るほうが、話し手の記憶がよみがえりやすくなります。
- 1. 事実
- いつ、どこで、誰が、何をしたか。「最初の店はどこにありましたか」のように、答えが一つに決まる質問から始めます。
- 2. 理由
- なぜそうしたのか。「なぜ、その場所を選んだのですか」「ほかに考えていた場所はありましたか」と、選ばなかった道もあわせて聞きます。
- 3. 気持ち
- そのとき、どう感じていたか。「決めたとき、不安はありましたか」のように、事実と理由を聞いたあとで尋ねます。
具体的な場面を聞く
「苦労したことは何ですか」のような大きな質問には、まとめた答えが返ってきやすく、原稿にしたときに印象に残りません。「最初の注文が入った日のことを覚えていますか」「そのとき、事務所には誰がいましたか」のように、一つの日、一つの場所に絞って聞くと、読み手が思い浮かべられる場面が集まります。
大きな質問の例創業のころは大変でしたか。
場面を聞く質問の例最初のお客様から電話があったとき、どこで、何をしていましたか。
避けたい質問の形
- 答えを決めつける質問:「やはり大変だったのでしょうね」と聞くと、話し手は聞き手の言葉に合わせて答えがちです。
- 一度に複数を聞く質問:「いつ、なぜ、どうやって」をまとめて聞くと、答えが一部で終わります。一つずつ聞きます。
- 「はい」「いいえ」で終わる質問だけを続けること:確認には向いていますが、話が広がりません。「どのように」「なぜ」を織り交ぜます。
相手別の質問例
次の表は、相手ごとの質問の例です。そのまま使うよりも、年表の下書きで見つかった空欄や、資料で気になった点に合わせて言い換えると、その会社ならではの話を聞けます。
| 相手 | 質問の例 |
|---|---|
| 経営者 |
|
| 先代・創業者 |
|
| 古参社員 |
|
| OB・OG |
|
| 取引先 |
|
どの相手にも、答えのあとに「それはなぜですか」「そのとき、どう感じましたか」と重ねて聞くと、事実だけでなく理由と気持ちまで聞けます。取引先には、社名と発言を社史に載せてよいかを、取材の前に確かめておきます。
録音と記録の扱い
取材は、話し手の同意を得てから録音し、録音と文字起こしは保管の場所と期間を決めて扱います。録音は、聞き違いを防ぎ、話し手の言い回しを正確に残すために役立ちます。一方で、話し手にとっては自分の声と言葉が残る記録です。扱いの決まりを先に伝えておくと、話し手が安心して話せます。
録音の同意を取る
- 取材の前に、録音してよいかを尋ね、当日の冒頭でもあらためて確かめます。
- 録音の目的(原稿を書くため、記録として残すため)と、誰が聞くかを伝えます。
- 「この話は録音を止めてほしい」と言われたら、止めます。止めた部分は原稿に使わないことを伝えます。
個人情報として扱う
取材の録音や記録には、話し手本人のほか、話に出てくる社員、OB・OG、取引先の名前や経歴が含まれます。個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)の第2条は、個人情報を「生存する個人に関する情報」で、特定の個人を識別できるものなどと定めています(出典:e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」)。録音や文字起こしのファイルは、保存する場所と閲覧できる人を限り、使い終えたあとの扱いも決めておきます。
話し手の言葉の権利を確かめる
著作権法第10条は、著作物の例として「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」を挙げています(出典:e-Gov法令検索「著作権法」)。取材での語りがどのように扱われるかは、内容や状況によって異なります。社史やウェブに話し手の言葉を使うことについて、取材の前に了承を得ておくと、あとで迷わずにすみます。権利の扱いに迷う場合は、弁護士などの専門家にご確認ください。
取材の前に話し手へ伝えておくこと
- 取材の目的と、できあがる社史の使い道(社内配布か、社外にも配るか、ウェブにも載せるか)
- 録音すること、録音を聞く人、保管の期間
- 原稿は、公開の前に話し手に確認してもらうこと
- 話したくないことは話さなくてよいこと、載せたくない話はあとから外せること
オンラインで取材するときの注意
オンラインの取材は、遠方に住むOB・OGや取引先にも話を聞けるのが利点です。対面と比べると、音声の途切れや、資料を一緒に見にくいといった点に工夫が要ります。
- 接続を前もって試す:話し手が慣れていない場合は、前日までに短い接続の練習をします。当日つながらないときの連絡手段(電話番号)も決めておきます。
- 録音の方法を決める:会議システムの録音機能を使う場合は、録音が始まると参加者に表示されることが多いため、始める前に一言断ります。念のため、別の機器でも録音しておくと安心です。
- 資料を先に送る:年表の下書きや写真は、画面共有だけに頼らず、前もって送っておきます。話し手が手元で見ながら話せます。
- 話す順番を決める:音声が重なると聞き取れなくなるため、聞き手は1人に絞り、ほかの人は聞く側に回ります。
- 時間を短めにする:画面越しの会話は疲れやすいため、対面よりも短い時間で区切り、必要なら回数を増やします。
- 周りの環境を整える:話し手の自宅などから参加する場合、家族の声や生活の様子が映り込むことがあります。録画するときは、背景にも配慮をお願いします。
取材のあとにすること
取材のあとは、文字起こし、事実の確認、話し手の確認の3つを、この順に進めます。取材の記憶が新しいうちに手をつけるほど、聞き漏らしや聞き違いを直しやすくなります。
| 作業 | 内容 | 時期の目安 |
|---|---|---|
| メモを残す | 印象に残った話、次に聞くこと、確かめる事実を短く書き出します | 取材の当日 |
| 文字起こし | 録音を文字にします。自動の文字起こしを使う場合も、固有名詞、年、数字は録音を聞き直して直します | 次の取材の前まで |
| 事実の確認 | 年、数字、人の名前、出来事の順番を、登記、決算書、社内報、新聞記事などで確かめます。確かめられない話には、その旨の印を付けます | 原稿を書く前 |
| 次の取材の準備 | 分からなかったことや、話し手によって食い違ったことを、次の取材の質問に回します | 次の取材の前まで |
| 話し手の確認 | 原稿のうち、その人の発言や、その人について書いた部分を見てもらい、事実の誤りと、載せてよいかを確かめます | 原稿ができたあと、公開の前 |
自動の文字起こしを使うとき
自動の文字起こしは手間を大きく減らせますが、社名、人名、製品名、地名を誤って変換することがあります。また、録音をインターネット上のサービスに読み込む場合は、そのサービスが預けたデータをどう扱うか(保存の期間、学習への利用など)を確かめてから使います。
話し手の確認で気をつけること
話し手に確認してもらうのは、主に事実の誤りと、載せてよいかどうかです。言い回しの細かな直しまで求められると、原稿全体の調子がそろわなくなることがあります。確認をお願いするときに、何を見てほしいかを具体的に伝えます。載せないことにした話は、社内だけの記録として残すか、記録からも外すかを、話し手と一緒に決めます。
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- 聞き取り
- 無料資料「代替わりの前に残す、記録のチェックリスト」は、先代に聞く20の質問、聞き取りの段取り(前・当日・あと)のチェック項目、聞いた話を年表・人物・判断の記録の3つの書式にまとめる方法を収めた資料です。
社史の言葉の意味は、社史づくりの用語集にもまとめています。
よくある質問
- 社史の取材では、誰に話を聞けばよいですか
- 経営者、先代・創業者、古参社員、OB・OG、取引先の5つの立場が基本です。経営者と先代からは判断の理由を、社員とOB・OGからは現場の場面を、取引先からは外から見た会社の姿を聞きます。何人に聞くかは、社史の型と分量によって決めます。
- 取材の前に、何を準備すればよいですか
- 分かる年と出来事だけを並べた年表の下書きを作り、写真や会社案内などの資料に目を通しておきます。主な質問やテーマは数日前までに話し手へ送り、録音してよいかもこのときに尋ねます。
- 1回の取材は、どのくらいの時間がよいですか
- 決まった正解はありません。話し手の負担、聞く範囲、相手の役割、締め切りを考えて決めます。長くなると後半の話が浅くなりがちなため、テーマを一つに絞り、必要に応じて回数を分ける方法があります。
- よい話を聞くには、どんな質問をすればよいですか
- 「事実」「理由」「気持ち」の順に重ねて聞きます。「大変でしたか」のような大きな質問よりも、「最初の注文が入った日、どこにいましたか」のように一つの場面に絞った質問のほうが、原稿に使える具体的な話が集まります。
- 取材を録音してもよいですか
- 話し手の同意を得てから録音します。目的と、録音を聞く人、保管の期間を伝え、止めてほしいと言われた部分は録音を止めます。録音や文字起こしは個人情報を含むため、保存の場所と閲覧できる人を限ります。法律上の扱いに迷う場合は、専門家にご確認ください。
- オンラインの取材でも、社史は作れますか
- 作れます。遠方の方にも話を聞けるのが利点です。前もって接続を試し、年表や写真は事前に送り、対面よりも短い時間で区切るなどの工夫をします。
- 取材のあと、話し手に原稿を見せるべきですか
- 公開の前に、その人の発言や、その人について書いた部分を見てもらうことをおすすめします。事実の誤りと、載せてよいかどうかを確かめてもらい、載せない話の扱いも話し手と一緒に決めます。
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公開日:2026年10月15日 KATARU(運営 ミダスマーケティング)