小さな会社が社史を作る意味
社史は、創業から長い年月がたった大きな会社だけのものではありません。創業10年未満、社員数十人の会社でも、社史を作る意味があります。小さな会社ほど、会社の歴史や判断の理由が経営者や古くからの社員の記憶に集まっており、その人が会社を離れると、記録も一緒に失われやすいためです。
小さな会社の社史は、厚い本である必要はありません。写真に説明を添えた年表、数ページのPDF、ウェブのページなど、薄い形から始め、年ごとに書き足していく方法があります。早く始めるほど、当時を知る人に直接話を聞くことができ、記憶が新しいうちに判断の理由を残せます。社史の基本的な考え方は、社史とはで解説しています。
数字で見る、小さな会社と事業承継
日本の会社のほとんどは中小企業であり、その多くは小規模事業者です。中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者の数」(総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」を再編加工したもの)によると、2021年6月時点で、中小企業は336.5万者で企業全体の99.7%、そのうち小規模事業者は285.3万者で84.5%を占めています。
また、中小企業庁『2025年版中小企業白書』では、事業承継と休廃業について、次のような状況が示されています。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 中小企業の数 | 336.5万者(企業全体の99.7%) | 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数」(2021年6月時点) |
| 小規模事業者の数 | 285.3万者(企業全体の84.5%) | 同上 |
| 経営者の年齢 | 中小企業では60歳以上の経営者が過半数を占める | 『2025年版中小企業白書』第1部第1章第9節 |
| 全国の経営者の平均年齢 | 2024年に60.7歳 | 同白書のコラム(帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2024年)」) |
| 休廃業・解散の件数 | 2024年に約7万件。そのうち小規模事業者が一貫して9割を超える | 『2025年版中小企業白書』第1部第1章第8節(帝国データバンクのデータに基づく集計) |
| 黒字での休廃業・解散 | 2024年に休廃業・解散した企業のうち51.1%が黒字 | 同上 |
| 承継にかかる期間 | 後継者への移行に3年以上を要するとの回答が半数を超える | 『2025年版中小企業白書』第1部第1章第9節のコラム1-1-12 |
黒字のまま事業を閉じる会社が半数を超えていることは、事業そのものに価値があっても、引き継ぐ人や準備が整わずに終わる場合があることを示しています。事業を誰かに引き継ぐ場合も、閉じる場合も、その会社が何を大切にし、どう判断してきたかを記録しておくことには意味があります。
小さな会社で記録が失われやすい理由
小さな会社では、記録を残す仕組みよりも、目の前の仕事が優先されやすくなります。その結果、次のような理由で、会社の歴史や判断の理由が残りにくくなります。
- 人に依存している
- 創業の経緯、取引先との関係の始まり、価格や品質の決め方などが、経営者や一部の社員の記憶にだけあることがあります。その人が退職したり、体調を崩したりすると、聞く相手がいなくなります。
- 資料が散らばっている
- 写真は個人のスマートフォン、やりとりはメールやチャット、書類は紙とクラウドに分かれて保管されていることがあります。誰がどこに何を持っているかが分からず、時間がたつほど集めにくくなります。
- 理由が書き残されていない
- 会議の記録や書類に残るのは、何を決めたかという結論です。なぜそう決めたのか、ほかにどんな道があったのかは、書き残されないまま忘れられやすくなります。
- まだ早いと考えられている
- 創業から年数が浅いうちは、社史を作るのは先のことと考えられがちです。創業期を知る人がそろっているうちに話を聞けるのは、年数が浅いいまの時期です。
中小企業庁が2017年3月に公表した事業承継の手引き「経営者のための事業承継マニュアル」では、引き継ぐものの1つとして「知的資産」を挙げ、その例に経営理念、経営者の信用、取引先との人脈、従業員の技術・ノウハウ、顧客情報を示しています。こうした目に見えない資産は、書き残さなければ人とともに失われやすいものです。
薄い形で始める方法
小さな会社の社史は、はじめから本の形を目指さず、作りやすい形から始めて、少しずつ厚くしていく方法が向いています。主な形と、その特徴は次のとおりです。
| 形 | 中身 | 向いている場面 | あとから広げる方法 |
|---|---|---|---|
| 写真年表 | 年ごとの出来事に、写真とひとことの説明を添えた一覧 | はじめての社史、会社紹介 | 転機ごとに、判断の理由を書いた短い文章を足します |
| 数ページから十数ページの読みもの | 社内での共有、採用、取引先への説明 | 年ごとに章を足し、ページを増やします | |
| ウェブのページ | 会社のサイトに載せる沿革と、創業の物語 | 採用、会社紹介 | 出来事が起きるたびに更新します |
| 年次の記録 | 毎年1回、その年の出来事と判断の理由をまとめた記録 | 社内の記録、事業承継の準備 | 数年分がたまったら、冊子や本にまとめます |
どの形から始めても、年表を土台にしておくと、あとで別の形に作り替えやすくなります。年表の作り方は年表の作り方、構成の選び方は社史の5つの型で解説しています。
小さな会社の社史の使い道
小さな会社の社史は、記念として配るだけでなく、日々の仕事の中で使えます。主な使い道と、最初に作るとよいものは次のとおりです。
| 使い道 | 主に読む人 | 伝わること | 最初に作るもの |
|---|---|---|---|
| 採用 | 入社を考えている人 | なぜこの会社ができ、どんな人が働いているのか | 創業の物語と、社員の声 |
| 取引先への説明 | 新しく取引を始める会社 | どんな歩みで、何を大切にしてきたのか | 写真年表 |
| 事業承継 | 次の世代、引き継ぐ人 | 何を受け継ぎ、何を変えてよいのか | 転機ごとの判断の理由 |
| 社内の共通の言葉 | 全社員 | 会社の考え方と、それが生まれた経緯 | 経営者の言葉と、その背景 |
| 社内のAIが参照する資料 | 社内のAIと、それを使う社員 | 会社の事実と、判断の理由 | 年表と、省略のない文で書いた記録 |
社員が少ない会社では、社員一人ひとりが会社の歩みを知っていることが、取引先や採用の相手への説明の力になります。社史を採用に使う方法は社史を採用に使う、社内のAIに渡す方法は社内のAIに、自社のことを教える方法で解説しています。
始めるときの最小の手順
小さな会社が社史づくりを始めるときは、次の5つの手順から始められます。どれも、通常の業務と並行して進められる大きさです。
- 使い道を1つ決める:採用、取引先への説明、事業承継などから、いちばん役立てたい使い道を1つ選びます。
- 年表の下書きを作る:登記の日、最初のお客様、拠点の移転、社員が増えた時期など、分かる出来事を年ごとに書き出します。年が分からない出来事は「〇〇年ごろ」と書いておきます。
- 資料と写真を1か所に集める:社員が個人で持っている写真や、会社案内、チラシなどを共有のフォルダに集めます。写真には、年、場所、場面のメモを添えます。
- 経営者に話を聞く:年表の転機ごとに、「なぜそう決めたのか」「ほかにどんな道があったのか」を聞き、録音して文字に起こします。
- 薄い形にまとめて、年に1回書き足す:写真年表やPDFなど、使い道に合う形にまとめます。決算の時期や創業記念日など、年に1回の書き足す日を決めておきます。
経営者に聞くときのコツ
- 年表を手元に置いて聞くと、記憶を思い出しやすくなります。
- 1回で全部を聞こうとせず、1回1時間程度、転機を1つか2つに絞って聞きます。
- 年や数字は、登記や決算書などの資料で確かめてから記録します。
社史づくり全体の工程と期間の目安は社史の作り方:流れと期間の目安、費用の考え方は社史の費用で解説しています。
公開する前に確かめること
小さな会社では、社員一人ひとりの顔や名前が社外に知られやすく、社史に載せた内容の影響も大きくなります。とくにウェブで公開する場合は、次の点を確かめます。
- 社員の名前と顔写真:載せる前に本人の同意を取ります。退職した人の扱いも、事前に方針を決めておきます。ウェブに出す場合は、紙の冊子とは分けて確認します。
- 取引先の名前:相手先に確認を取ってから載せます。確認が取れない場合は、「ある取引先」のように名前を出さない書き方にします。
- 社内の数字:売上などの数字を社外向けに出してよいかを、社内で確認します。
- 社内のAIに渡す場合:社員や取引先の個人情報を含む記録を渡す前に、使うAIのサービスで入力した情報がどのように扱われるかを確かめます。
著作権、肖像権、個人情報の扱いで判断に迷う場合は、弁護士などの専門家にご確認ください。
無料資料のご案内
小さな会社で社史づくりを始めるときに使える資料を、無料で公開しています。
- 無料資料「代替わりの前に残す、記録のチェックリスト」:経営者や先代に聞く質問の全20問、資料集めと聞き取りの段取りのチェック項目、年表・人物・判断の記録の書式を収めています。
- 無料資料「社内のAIに、自社のことを教える入門」:社史の記録を、社内のAIが参照できる形にまとめるときの入門資料です。
事業承継の前に記録を残す方法は、代替わりの前に、先代から聞いておくことでも解説しています。
よくある質問
- 創業10年未満の会社でも、社史を作る意味はありますか
- あります。創業期を知る人がそろっているうちに、創業の経緯や判断の理由を直接聞いて残せるためです。年数が浅い会社は、写真年表や数ページのPDFなどの薄い形から始め、年ごとに書き足していく方法が向いています。
- 社員が数十人の会社でも、社史は役に立ちますか
- 役に立ちます。採用の場で会社の成り立ちを伝える、取引先に歩みを説明する、事業承継の準備として判断の理由を残す、社内のAIに会社のことを教える材料にする、といった使い道があります。
- 本にしなくても、社史と呼べますか
- 呼べます。社史は、会社の歩みを記録したものであり、形は本に限りません。写真年表、PDF、ウェブのページ、年ごとの記録など、使い道に合った形を選べます。
- 記録や写真がほとんど残っていない場合は、どうすればよいですか
- 経営者や古くからの社員への聞き取りから始めます。登記や決算書で年や数字を確かめながら年表の下書きを作り、社員が個人で持っている写真を集めると、材料が少しずつそろいます。
- 社史づくりは、誰が担当すればよいですか
- 小さな会社では、経営者が語り手になり、社員の1人が資料集めと年表の整理を担当するという分担が考えられます。聞き取りや執筆を社外に頼むかどうかは、体制と予算に合わせて決めます。
- 中小企業や小規模事業者は、どのくらいの数がありますか
- 中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者の数」によると、2021年6月時点で中小企業は336.5万者(企業全体の99.7%)、そのうち小規模事業者は285.3万者(84.5%)です。
続きは、無料の資料で
先代に聞く20の質問の全文、聞き取りの段取りのチェック項目、年表・人物・判断の記録の書式は、無料資料「代替わりの前に残す、記録のチェックリスト」にまとめています。会社名、お名前、メールアドレスをご入力いただくと、PDFをすぐにお送りします。
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公開日:2026年10月15日 KATARU(運営 ミダスマーケティング)