採用で社史が役立つ理由
社史を採用に使うとは、会社の歩みの中から「なぜこの会社があるのか」「何を大事にしてきたのか」を切り出し、会社説明会、採用ページ、面接、内定者・新入社員研修で候補者に伝えることです。給与や勤務地などの条件は、求人票で比べられます。一方、会社の考え方や判断の仕方は、条件の一覧には表れません。社史は、その部分を具体的な出来事と人の言葉で示せる資料です。
候補者にとって、会社の歴史は「この会社で働くと、どんな場面で、どんな判断をすることになるのか」を想像する手がかりになります。創業の理由や転機の判断を知ると、仕事の中身や職場の空気を、自分のこととして思い浮かべやすくなります。採用に使うために社史を一から作る必要はなく、すでにある社史や、社内に残る記録と聞き取りから、採用に合う部分を選び出せば使えます。
社史にどんな構成があるかは、社史の5つの型にまとめています。このうち、いま働く人の言葉でまとめる「声型」は、採用との相性がよい型です。
社史が役立つ4つの場面
採用で社史が役立つ場面は、主に会社説明会、採用ページ、面接、内定者・新入社員研修の4つです。場面ごとに、候補者が知りたいことと、使う長さが変わります。
| 場面 | 候補者が知りたいこと | 社史から使うもの | 長さの目安 |
|---|---|---|---|
| 会社説明会 | この会社は何のためにあり、どこへ向かうのか | 創業の理由、転機を1つ、これからの方針 | 説明の最初の5分ほど。スライド3〜5枚 |
| 採用ページ | どんな人が、どんな考えで働いているのか | 創業の物語、社員の声、大事にしている言葉 | 1つの話を400〜800字ほどにまとめ、複数のページに分ける |
| 面接 | 自分の考えと、会社の考えが合うか | 転機の判断、大事にしている言葉 | 面接官が1〜2分で話せる量 |
| 内定者・新入社員研修 | 入社した会社の成り立ちと、仕事の背景 | 通史、年表、転機と判断の理由、先輩の声 | 社史の冊子をそのまま、または1〜2時間の講義 |
会社説明会:冒頭で「なぜ」を伝える
会社説明会では、事業や制度の説明に入る前に、創業の理由と、会社の流れが変わった転機を1つ伝えます。最初に「なぜこの会社があるのか」が分かると、そのあとの事業や仕事の説明が、ばらばらの情報ではなく一つの筋として受け止められます。
採用ページ:読み物として置く
採用ページには、社史から切り出した話を、短い読み物として置きます。1ページに1つの話を載せ、題名に年と出来事を入れると、読み手が探しやすくなります。社員の声を載せる場合は、入社の理由や、いまの仕事で大事にしていることを、同じ問いで聞いてそろえます。
面接:判断の理由を題材にする
面接では、会社の転機での判断を短く紹介し、候補者に「あなたならどう考えるか」を尋ねる使い方があります。会社の考え方を伝えると同時に、候補者の考え方を知る手がかりになります。題材は、事前に面接官のあいだでそろえておきます。
内定者・新入社員研修:全体を読む
内定者や新入社員には、社史の全体を読んでもらう時間を取れます。研修では、年表を見ながら、自分の部署や担当する製品がいつ、なぜ生まれたかを確かめると、仕事の背景が理解しやすくなります。先輩社員に、社史に出てくる出来事の当時の様子を話してもらう方法もあります。
社史から切り出す4つの要素
社史から採用向けに切り出すのは、「創業の理由」「転機の判断」「社員の声」「大事にしている言葉」の4つです。どれも、条件の比較では伝わらない、会社の考え方を示す要素です。
- 創業の理由
- 誰が、いつ、何に困っている人のために会社を始めたのかを書きます。創業者の経歴を並べるよりも、創業のきっかけになった場面を1つ描くほうが伝わります。書き方は、創業の物語の書き方で解説しています。
- 転機の判断
- 会社の流れが変わった出来事と、そのときに「ほかにどんな道があったか」「なぜその道を選んだか」を書きます。候補者は、この会社が迷ったときに何を優先するかを知ることができます。
- 社員の声
- いま働く人が、なぜ入社し、何を大事にして仕事をしているかを、本人の言葉で伝えます。入社の年や部署の異なる人を組み合わせると、会社のいろいろな面が見えます。
- 大事にしている言葉
- 経営理念や、社内でよく使われる言い回しを、その言葉が生まれた場面と一緒に伝えます。言葉だけを掲げるよりも、生まれた経緯があるほうが、意味が具体的になります。
4つの要素のうち、転機の判断と大事にしている言葉は、書類にはほとんど残りません。経営者や古くからいる社員への聞き取りで集めます。聞き方は、取材の進め方と質問例にまとめています。
例(架空の会社)ある部品メーカーでは、取引先の工場が移転したときに、移転先へついていくか、地元に残って新しい取引先を探すかで判断が分かれました。地元に残ると決めた理由と、そのあとの数年間の取り組みを採用ページに載せ、「地域で働き続けたい人」に向けた話としてまとめました。
媒体ごとの使い方
同じ社史の内容でも、媒体によって、ふさわしい長さと形が変わります。次の表は、採用でよく使う媒体ごとに、社史をどう使うかを整理したものです。
| 媒体 | 向いている要素 | 形 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 採用ページ | 創業の物語、社員の声、大事にしている言葉 | 1話完結の読み物、年表 | 社員の名前と顔写真は、本人の同意を得てから載せます。内容が古くなったら更新します |
| 会社説明会のスライド | 創業の理由、転機を1つ | 写真1枚と短い文の組み合わせ | 1枚に1つの出来事に絞ります |
| 会社案内の冊子・パンフレット | 年表、創業の理由、これからの方針 | 見開きの年表、短い読み物 | 年や数字は、社史と同じ値にそろえます |
| 動画 | 社員の声、創業者や経営者の言葉 | 1本数分の語り | 出演する人の同意と、使う期間・範囲を決めておきます |
| SNS | 年表の1項目、昔の写真 | 「〇年前の今日」のような短い投稿 | 写っている人と撮影した人を確かめてから使います |
| 面接の資料 | 転機の判断、大事にしている言葉 | 面接官向けの1枚のメモ | 面接官ごとに説明が変わらないよう、内容をそろえます |
| 内定者・新入社員研修 | 通史、年表、先輩の声 | 社史の冊子、講義、ワークショップ | 社内向けの内容を含む場合は、配る範囲を決めます |
社史を社内のAIに読み込ませておくと、採用担当者が説明会や面接の準備をするときに、会社の歩みを確かめる手段にもなります。方法は、社内のAIに、自社のことを教える方法で解説しています。
採用向けにまとめる手順
採用向けの内容は、次の順番でまとめると進めやすくなります。すでに社史がある場合は、手順2から始められます。
- 求める人を言葉にする:どんな考え方の人に来てほしいかを、採用担当者と経営者で話し合い、短い言葉にします。
- 合う話を選ぶ:社史や社内の記録から、手順1の言葉に合う出来事を3〜5つ選びます。成功した話だけでなく、迷った話や失敗から立て直した話も候補に入れます。
- 事実を確かめる:年、数字、関わった人を、社内の資料や聞き取りで確かめます。記憶に頼った話は、年がずれていることがあります。
- 媒体ごとの長さに書き分ける:同じ話を、説明会用の数行、採用ページ用の数百字、研修用の全文のように書き分けます。
- 載せてよいかを確かめる:名前や写真が出る人、取引先、社内の数字について、掲載の同意と社内の確認を取ります。
- 更新の時期を決める:採用ページや会社案内は、年に1回など、見直す時期を決めておきます。
社史そのものをまだ作っていない場合は、全体の流れを社史の作り方の流れと期間で確認できます。
気をつけること
社史を採用に使うときは、「掲載の同意を取る」「誇張しない」「求人の表示に関する決まりを確かめる」「面接で聞いてよいことの範囲を守る」の4つに気をつけます。
社員の名前と顔写真は、本人の同意を得てから載せる
採用ページや動画に社員の名前、顔写真、経歴を載せる場合は、本人の同意を得てから載せます。ウェブに載せた情報は、本人が退職したあとも残り続けることがあるため、退職したときの扱い(削除する、名前を伏せるなど)も、同意を取るときに決めておきます。昔の写真に写っている元社員や、すでに亡くなった人の扱いも、事前に方針を決めます。個人情報や肖像の扱いで判断に迷う場合は、弁護士などの専門家にご確認ください。
誇張しない
採用向けの文章は、会社をよく見せようとして、話を大きくしやすい場面です。入社後に「聞いていた話と違う」と感じられると、早い時期の離職につながることがあります。苦労した時期や、うまくいかなかった判断も含めて、事実に沿って書きます。年や数字は社史や社内の資料と同じ値にそろえ、確かめられないものは「〇年ごろ」のように幅を持たせます。
求人の表示に関する決まりを確かめる
採用ページや求人広告に載せる内容には、職業安定法の決まりがかかわります。厚生労働省の「令和4年職業安定法の改正について」によると、令和4年10月1日に施行された改正職業安定法で、求人等に関する情報の的確な表示が義務化されました。厚生労働省のリーフレット「募集情報等提供事業者の皆さまへ」では、求人企業も虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならないこと、募集を終了した場合や内容に変更があった場合には、採用ウェブサイトを速やかに更新するなどして求人情報を正確・最新の内容に保つことが示されています。
社史の物語そのものは労働条件の表示ではありませんが、同じページに仕事の内容や働き方を書く場合は、実際と食い違わないように確かめます。どこまでがこの決まりの対象になるかは、媒体や書き方によって判断が分かれることがあります。最新の内容は厚生労働省の情報で確かめ、迷う場合は社会保険労務士や弁護士などの専門家、または最寄りの労働局にご相談ください。
面接で聞いてよいことの範囲を守る
面接で会社の歴史を話題にすると、話が広がり、候補者の家族や出身地に話が及ぶことがあります。厚生労働省の鹿児島労働局が示す公正な採用選考の考え方では、応募者の適性と能力を基準にすることを基本とし、本籍・出生地、家族、生活環境といった本人に責任のない事項や、宗教、支持政党、尊敬する人物、思想といった本来自由であるべき事項を、採用選考で把握しないよう求めています。話の流れや、場を和らげるつもりで聞いたことも、応募者を傷つけるおそれがあるとされています。社史を面接の題材にするときは、質問の内容を面接官のあいだで事前にそろえ、「会社の判断について、あなたならどう考えるか」のように、仕事の考え方に関する問いにとどめます。
公開前に確かめること
- 名前・顔写真・経歴を載せる社員の同意を得たか。退職したときの扱いを決めたか
- 取引先の名前や取引の内容を載せる場合、相手先の確認を取ったか
- 年や数字が、社史や社内の資料と同じ値になっているか
- 仕事の内容や働き方の記述が、実際と食い違っていないか
- 写真を撮った人と、採用に使ってよい取り決めかどうかを確かめたか
- 見直す時期と担当者を決めたか
さらに詳しく知りたい方へ
採用に使う話の素材は、経営者や古くからいる社員への聞き取りで集めます。聞き取りの進め方と、聞いた話のまとめ方は、次の無料資料とページにまとめています。
- 聞き取り
- 無料資料「代替わりの前に残す、記録のチェックリスト」は、先代に聞く20の質問、聞き取りの段取り、年表・人物・判断の記録の書式を収めた資料です。創業の理由や転機の判断を聞き出すときにも使えます。
- 中身
- 社史に何を書くかでは、社員の声や転機と判断の理由など、社史に載せる要素の役割と入れ方を解説しています。
用語の意味は、社史づくりの用語集にもまとめています。
よくある質問
- 社史は、採用のどの場面で使えますか
- 主に、会社説明会、採用ページ、面接、内定者・新入社員研修の4つの場面で使えます。説明会では創業の理由と転機、採用ページでは創業の物語と社員の声、面接では転機の判断、研修では社史の全体を使うのが基本です。
- 社史がない会社でも、採用に会社の歴史を使えますか
- 使えます。社内に残る記録と、経営者や古くからいる社員への聞き取りから、創業の理由、転機の判断、大事にしている言葉を短くまとめれば、採用ページや説明会で使えます。まとめたものは、のちに社史をつくるときの素材にもなります。
- 社史のどこを採用向けに切り出せばよいですか
- 創業の理由、転機の判断、社員の声、大事にしている言葉の4つです。どれも、給与や勤務地などの条件の比較では伝わらない、会社の考え方を示す要素です。
- 採用ページに社員の名前や顔写真を載せてもよいですか
- 本人の同意を得てから載せます。あわせて、退職したときの扱いや、載せる期間も決めておきます。個人情報や肖像の扱いで判断に迷う場合は、弁護士などの専門家にご確認ください。
- 採用ページの内容に、法律上の決まりはありますか
- 令和4年10月1日に施行された改正職業安定法で、求人等に関する情報の的確な表示が義務化され、厚生労働省の資料では、求人企業も虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならないとされています。具体的な判断は、厚生労働省の最新の情報で確かめ、迷う場合は専門家や労働局にご相談ください。
- 面接で会社の歴史を話題にするときの注意点はありますか
- 話が候補者の家族や出身地、思想などに及ばないように気をつけます。社史を題材にする場合は、質問を面接官のあいだで事前にそろえ、会社の判断について候補者の考えを聞くなど、仕事の考え方に関する問いにとどめます。
- 採用向けの内容は、どのくらいの頻度で見直せばよいですか
- 年に1回など、見直す時期を決めておきます。社員の声は、本人の退職や異動で内容が古くなることがあるため、採用の時期の前に確かめると安心です。
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公開日:2026年10月15日 KATARU(運営 ミダスマーケティング)