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社史のつくり方

創業の物語の書き方:社史の最初の章

創業の章は、会社がなぜ生まれたのかを伝え、社史全体を読むための土台になる章です。構成の型と書き方のコツ、架空の例文、創業者が亡くなっている場合の書き方を紹介します。

創業の章の役割

創業の章は、社史の最初の章として、「この会社はなぜ生まれたのか」を伝え、その後のすべての章を読むための土台をつくる章です。創業のきっかけ、最初のお客様、苦しかった時期、転機、そこから生まれた考え方を、場面と判断の理由を交えて書きます。創業の物語には、いまの会社の考え方や仕事の進め方の原点が表れることが多く、読み手はこの章を通して、会社の性格をつかみます。

創業の章は、社史の中でも特に読まれやすい章です。社員にとっては会社の原点を知る機会になり、取引先や採用の候補者にとっては、会社の考え方を知る入口になります。そのため、出来事の記録にとどめず、読み物として書くことに力を注ぐ価値があります。

社内に向けて
会社が大切にしてきたことの由来を伝え、いまの方針や習慣の理由を理解してもらう
社外に向けて
会社がどんな問いから始まったかを伝え、信頼のきっかけにする
次の世代に向けて
創業者の判断の理由を記録し、迷ったときに立ち返る基準を残す

社史全体の構成の中での位置づけは、社史の5つの型で紹介しています。どの型でも、創業の話は冒頭に置かれることが多い要素です。

集める材料

創業の物語の材料は、「創業者の言葉」「当時の資料と写真」「時代背景」の3つです。言葉で判断の理由と気持ちを、資料で年と事実を、時代背景で当時の状況を補い、3つを組み合わせて書きます。

材料分かること集め方
創業者への聞き取り創業のきっかけ、判断の理由、当時の気持ち、選ばなかった道テーマを創業期に絞って聞きます。聞き方は社史の取材の進め方と質問例をご覧ください
創業者が書いたもの当時の考え、言い回し挨拶文、年賀状、手紙、手帳、社内報の巻頭の言葉などを探します。個人の記録は、本人や家族の許しを得てから読みます
登記の記録設立の年月日、当初の目的、所在地、役員法務局で登記事項証明書を取得できます。古い記録の扱いは法務局にお問い合わせください
当時の写真最初の店や事務所、創業メンバー、道具や製品社内のほか、創業者の自宅やOB・OGの手元に残っていることがあります。裏書きの日付や名前も控えます
最初の書類最初の取引、最初の製品、当時の価格や規模最初の見積書、納品書、帳簿、会社案内、チラシなどを探します
古参社員・取引先の話創業者の人柄、外から見た当時の会社創業者の話と照らし合わせ、記憶の食い違いを確かめます
時代背景の資料当時の景気、業界の状況、地域の出来事当時の新聞や雑誌、業界団体の記念誌、自治体史などで確かめます

時代背景を調べるときは、図書館の資料が役に立ちます。国立国会図書館の調べ方案内「リサーチ・ナビ」には、同館が所蔵する社史の探し方をまとめたページがあり、件名や分類を使った検索の方法が紹介されています(出典:国立国会図書館 リサーチ・ナビ「社史について調べる」)。同じ業界の会社の社史を読むと、当時の業界の様子を知る手がかりになります。資料の集め方の全体は、社史の資料集めにまとめています。

創業の物語の構成の型

創業の物語は、「きっかけ」「最初の顧客」「苦しかった時期」「転機」「今につながる考え方」の5つの段で組み立てると、読み手が流れを追いやすくなります。この順番は時間の流れとほぼ重なるため、年表の下書きと照らし合わせながら材料を振り分けられます。

段書くこと材料を集めるための問い
1. きっかけ何を見て、なぜ始めようと決めたか。創業前に何をしていたか始めようと決めたのは、いつ、どこにいたときですか
2. 最初の顧客最初のお客様との出会いと、最初の仕事の中身最初の注文は、誰から、どんな形で届きましたか
3. 苦しかった時期何に困り、どう持ちこたえたか。誰に支えられたかいちばん苦しかった時期、毎日何をしていましたか
4. 転機流れが変わった出来事と、そのときの判断の理由ほかにどんな道がありましたか。なぜ、その道を選びましたか
5. 今につながる考え方創業期の経験から生まれ、いまも続く考え方や習慣あのときの経験から、いまも守っていることは何ですか

すべての段を同じ分量で書く必要はありません。会社によって、きっかけに物語の山がある場合も、苦しかった時期に山がある場合もあります。いちばん語る価値のある段を厚くし、ほかの段は短くまとめます。最後の「今につながる考え方」は、次の章への橋渡しになるため、省かずに置くことをおすすめします。

書き方のコツ

創業の章を読まれる文章にするには、出来事を要約せずに場面として書き、数字と日付で裏づけ、判断の理由を添えることが中心になります。あわせて、美化しすぎないこと、確かめられない話の扱いを決めておくことが、社史としての信頼につながります。

場面で書く
「創業当初は苦労が多かった」とまとめるよりも、「冬の朝、暖房のない作業場で、創業者は一人で図面を引いていた」のように、いつ、どこで、誰が、何をしていたかを書きます。章の中に、読み手が思い浮かべられる場面を一つ以上入れます。
数字と日付を入れる
設立の年月、最初の社員の人数、最初の取引の規模などを入れると、話に輪郭が生まれます。数字には、何の資料に基づくかを確かめて添えます。人の記憶は年や数字がずれやすいため、登記や帳簿で裏を取ります。
判断の理由を書く
「何をしたか」に加えて「なぜそうしたか」「ほかにどんな道があったか」を書きます。判断の理由は書類に残りにくく、聞き取りでしか集められない、その会社だけの材料です。
美化しすぎない
失敗や迷い、うまくいかなかった試みも、差し支えのない範囲で書きます。成功だけを並べた物語は、かえって読み手に遠く感じられます。苦しかった時期を正直に書くほうが、その後の判断に説得力が生まれます。
確かめられない話の扱い
資料で裏づけられない話は、事実として断定せず、「創業者はのちに、〜と振り返っている」「社内では〜と語り継がれている」のように、誰の記憶や言い伝えかを示して書きます。年が分からない場合は「〇〇年ごろ」と幅を持たせます。

創業者の言葉は、要約せずに本人の言い回しのまま引用すると、人柄が伝わります。引用する言葉は、公開の前に本人や関係者に確認してもらいます。読まれる社史に共通する書き方は、読まれる社史の条件でも解説しています。

創業の章の例文

次の例文は、構成の型のうち「きっかけ」と「最初の顧客」の段を書いたものです。説明のために作った架空の例で、実在の会社や人物とは関係ありません。

架空の例(ある工務店の創業の章より)〇〇年の春、のちに創業者となる大工は、勤めていた工務店の現場で、雨漏りに悩む古い家の相談を受けていた。新築の仕事が中心だった当時、修繕だけの依頼を引き受ける先は多くなかった。「直してほしいと困っている家が、こんなにあるのか」。その思いが、独立を決めるきっかけになった。

架空の例(続き)独立して最初に届いた依頼は、近所の家の雨どいの修理だった。作業は半日で終わったが、創業者は帰り際に家じゅうの建具を点検し、気づいた点を紙に書いて渡した。後日、その家から台所の改修の相談が届く。「頼まれたこと以外も見て帰る」という習慣は、このときに始まり、いまも社員の点検の手順に残っている。

例文では、年と季節で時点を示し、場所と人の動きで場面をつくり、創業者の言葉を一言だけ引用しています。最後の一文で、創業期の出来事を「今につながる考え方」に結びつけています。実際に書くときは、例文の「〇〇年」にあたる年を、登記や帳簿で確かめてから入れます。

創業者が亡くなっている場合

創業者が亡くなっている場合は、家族、古参社員、OB・OG、取引先への聞き取りと、創業者が残した文書や写真を組み合わせて、創業の物語を書きます。本人から直接聞けない分、誰の記憶に基づく話かを示しながら書くことが大切になります。

話を聞く相手と、残された記録

  • 家族:創業前の暮らしや、家庭で語っていた仕事の話を聞けます。
  • 古参社員・OB・OG:創業者の口癖、仕事の進め方、判断の場面を聞けます。
  • 長く付き合いのある取引先:外から見た創業者の人柄や、取引の始まりを聞けます。
  • 残された文書:挨拶文、手紙、手帳、社内報、講演の記録、取材を受けた記事などから、本人の言葉を拾います。

書き方の工夫

本人の言葉が残っている場合は、出典を示して引用します(例:「〇〇年の社内報に、創業者は次のように書いている」)。言葉が残っていない場合は、「古参の社員によれば」のように、語り手を示して書きます。複数の人の話が食い違うときは、無理に一つにまとめず、資料で確かめられる範囲を事実として書き、残りは「〜という話も伝わっている」と書き分けます。

家族と関係者への配慮

個人情報保護法は、個人情報を「生存する個人に関する情報」と定めています(第2条。出典:e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」)。一方で、個人情報保護委員会のガイドラインは、亡くなった方に関する情報が、同時に遺族など生存する個人に関する情報でもある場合は、その生存する個人の情報にあたるとしています(出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」2-1)。創業者の私生活、病気、家族の事情などにふれる場合は、法律上の扱いにかかわらず、家族の了承を得てから載せます。判断に迷う場合は、弁護士などの専門家にご確認ください。

ウェブや採用ページへの転用

創業の章は、要点を短くまとめ直すと、会社のウェブサイトや採用ページ、会社案内にも使えます。社史の本文をそのまま載せるのではなく、使う場所と読み手に合わせて、長さと書き方を変えます。

使う場所長さの目安書き方
ウェブサイトの「会社について」数段落きっかけと、今につながる考え方を中心に書きます。年と出来事は沿革のページに分けます
採用ページ数段落創業の考え方が、いまの仕事や働き方にどう表れているかまで書くと、応募する人が入社後の姿を思い描けます
会社案内・パンフレット1〜2段落きっかけと、今につながる考え方を一つずつに絞ります
挨拶や式典のスピーチ数分で話せる長さ例文のような場面を一つ選び、話し言葉に直します

ウェブに載せる場合は、社員やOB・OG、取引先の名前、顔写真、私的な事情が含まれていないかを、あらためて確かめます。社史への掲載に同意していても、ウェブへの掲載は別に了承を得ておくと安心です。写真や文章の権利の扱いに迷う場合は、専門家にご確認ください。社史を採用に使う方法は、社史を採用に使うで解説しています。

ウェブに載せる文章は、検索やAIに読まれることも考え、年と主語を省かずに書きます。「〇〇年、創業者は〜を始めた」のように、1つの文だけで意味が通る書き方にすると、読み手にもAIにも伝わりやすくなります。

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よくある質問

創業の章には、何を書けばよいですか
創業のきっかけ、最初の顧客、苦しかった時期、転機、今につながる考え方の5つを軸にします。出来事に加えて、そのときの判断の理由と、読み手が思い浮かべられる場面を入れます。
創業の物語の材料は、どこから集めればよいですか
創業者への聞き取り、創業者が書いた挨拶文や手紙、登記の記録、当時の写真、最初の取引の書類、古参社員や取引先の話、当時の新聞などの時代背景の資料から集めます。
創業者の記憶と資料が食い違うときは、どうすればよいですか
年や数字は、登記や帳簿などの資料を優先します。食い違いは創業者に伝えて確かめ、それでも確かめられない話は、「創業者は〜と振り返っている」のように、誰の記憶かを示して書きます。
失敗や苦しかった話も、書いたほうがよいですか
差し支えのない範囲で書くことをおすすめします。成功だけを並べた物語よりも、迷いや失敗を経た判断のほうが、読み手に伝わりやすくなります。どこまで載せるかは、原稿をまとめたあとに関係者と一緒に決めます。
創業者がすでに亡くなっている場合も、創業の章は書けますか
書けます。家族、古参社員、OB・OG、取引先への聞き取りと、創業者が残した文書や写真を組み合わせます。誰の記憶に基づく話かを示して書き、私的な事情にふれる場合は家族の了承を得ます。
創業の章は、どのくらいの長さにすればよいですか
社史全体のページ数と型によって変わります。創業期に語るべき出来事が多い会社では厚くし、そうでない会社では短くまとめて、転機の章に分量を回します。
社史の創業の章を、ウェブサイトに載せてもよいですか
載せられます。ウェブ向けには、きっかけと今につながる考え方を中心に短くまとめ直します。人の名前や写真、私的な事情が含まれる場合は、ウェブへの掲載について、あらためて本人や家族の了承を得ます。

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公開日:2026年10月15日 KATARU(運営 ミダスマーケティング)