読まれる社史と、棚に置かれる社史の違い
読まれる社史に共通するのは、作り始める前に「誰が、何のために読むのか」が決まっていることです。読者が決まると、載せる話、書き方、厚さ、配り方が、その読者に合わせて選ばれます。反対に、読者を決めずに「会社の記録を残す」ことだけを目的にすると、出来事を年代順に並べた、どこから読めばよいか分からない本になりやすく、配られたあとに開かれないまま棚に置かれることがあります。
読まれるかどうかは、文章のうまさやデザインの豪華さよりも、企画の段階での決め方で大きく変わります。次の表は、作る前の決め方の違いが、できあがった社史にどう表れるかをまとめたものです。
| 観点 | 棚に置かれやすい社史 | 読まれる社史 |
|---|---|---|
| 読者 | 「全員に」配ることだけが決まっている | いちばん読んでほしい人が決まっている |
| 出来事の書き方 | 何があったかを並べている | なぜそう決めたのか、判断の理由が書いてある |
| 人の声 | 挨拶文のほかに、人の言葉がない | 語り手の言葉が、そのまま引用されている |
| 年表と本文 | 年表と本文が別々に作られている | 年表から本文の該当ページへたどれる |
| 写真 | 写真が並んでいるだけで、説明がない | いつ、どこで、何の場面かが添えられている |
| 厚さ | 集まった材料をすべて載せている | 読者が読み切れる厚さに絞り、残りは資料として保管している |
| 配ったあと | 配って終わる | 研修、採用、会社紹介などで使う場面が決まっている |
この7つの観点は、どれも原稿を書き始める前に決めておくことです。社史に載せる要素そのものは、社史に何を書くか:構成と載せる要素で解説しています。
作る前に決める7つの点
読まれる社史にするために、企画の段階で決めておく点は次の7つです。1と7は社史の目的、2から6は中身と形に関わる点です。
1. 読者が決まっている
いちばん読んでほしい人を、具体的に1つの集団に絞ります。「入社3年目までの社員」「後を継ぐ次の世代」「新しく取引を始める会社の担当者」のように、顔が思い浮かぶ程度まで絞ると、何を書き、何を省くかが決めやすくなります。読者が複数いる場合も、主役の読者を1つ決め、ほかの読者には章を足して応えます。読者に合う構成は、社史の5つの型から選べます。
2. 判断の理由が書いてある
会社の記録に残るのは、たいてい「何を決めたか」という結論です。読者が知りたいのは、「ほかにどんな道があり、なぜその道を選んだのか」という理由です。新しい事業を始めた、拠点を移した、ある事業から手を引いたといった転機ごとに、当時の状況、迷った点、決め手を書くと、その会社にしかない読みものになります。理由は書類に残りにくいため、当時を知る人への取材で聞きます。
3. 人の声がある
経営者や社員、OB・OGの言葉を、要約せずにそのまま引用します。本人の言い回しには、考え方や人柄、その時代の空気が表れます。挨拶文だけでなく、本文の中に短い引用を散りばめると、年代順の記録が「人の話」として読めるようになります。引用する言葉は、掲載の前に本人に確かめてもらいます。
4. 年表と本文がつながっている
年表は、読者が出来事や年を探すときに開くページです。年表の出来事に本文のページ番号を添え、本文の見出しには年を入れておくと、読者は年表から本文へ、本文から年表へと行き来できます。年表を先に作り、本文の章立てをそれに合わせると、年や表記のずれも防げます。作り方は年表の作り方で解説しています。
5. 写真に説明がある
写真は、説明があってはじめて記録になります。撮影した年(分からなければ「〇〇年ごろ」)、場所、何の場面か、写っている人の役割を添えます。説明は「写真のとおりの事実」に加えて、「この場面の後に何が起きたか」まで書くと、本文を読まない人にも歩みが伝わります。
6. 厚すぎない
集まった材料をすべて載せると、本は厚くなり、読み始めるまでの壁が高くなります。読者が読み切れる分量を先に決め、そこに収まるように話を選びます。載せなかった材料は捨てずに、社内の資料として保管しておけば、次の版や別の冊子で使えます。
7. 配ったあとの使い道がある
社史は、配ったあとに使う場面がなければ、開かれる機会が少なくなります。入社時の研修で読む、採用の面接の前に渡す、取引先との最初の打ち合わせで手渡すなど、配ったあとの使い道を企画の段階で決めておくと、読者と厚さの決め方にも筋が通ります。
7つの点のチェック表
企画の打ち合わせで、次の表を使って決めた内容を書き出しておくと、取材や原稿の確認のたびに立ち返る基準になります。「決まっていない」項目があれば、取材の前に決めます。
| 点 | 確かめる問い | 決まっている状態の例 | 確かめる時期 |
|---|---|---|---|
| 1. 読者 | いちばん読んでほしいのは誰か。その人は社史を読んで何を知りたいか | 「入社3年目までの社員。自社がなぜこの事業をしているのかを知りたい」と1文で言える | 企画 |
| 2. 判断の理由 | 転機はいくつあり、それぞれの理由を語れる人は誰か | 転機が3〜5つ挙がり、それぞれに取材する相手が決まっている | 取材の前 |
| 3. 人の声 | 誰の言葉を、どのくらい載せるか。掲載の確認は誰が取るか | 語り手の一覧と、確認を取る担当が決まっている | 取材の前 |
| 4. 年表と本文 | 年表を先に作るか。年表から本文へ、どうたどれるようにするか | 年表の下書きがあり、章立てが年表の区切りに合っている | 構成 |
| 5. 写真の説明 | 使う写真の年、場所、場面が分かっているか | 写真の一覧に、年・場所・場面・写っている人の欄がある | 資料集め |
| 6. 厚さ | 読者が読み切れるのは何ページか。載せない材料はどこに保管するか | ページ数の上限と、載せない材料の保管先が決まっている | 構成 |
| 7. 使い道 | 配ったあと、いつ、どこで、誰が使うか | 研修や採用など、使う場面と担当の部署が決まっている | 企画 |
7つすべてが最初から決まらなくても構いません。少なくとも1と7(読者と使い道)は企画の段階で決めておくと、残りの5つはそこから決めやすくなります。社史づくり全体の工程は、社史の作り方:流れと期間の目安にまとめています。
厚さの決め方
社史の厚さは、材料の量ではなく、読者がどのような場面で、どのくらいの時間をかけて読むかで決めます。次の表は、読者と読む場面から厚さを考えるときの目安です。
| 読者と読む場面 | 向いている形 | 考え方 |
|---|---|---|
| 取引先が、打ち合わせの前後に目を通す | 写真年表を中心にした薄い冊子 | 数分で歩みの全体が分かることを優先し、文章は挨拶と写真の説明にとどめます |
| 入社を考えている人が、面接の前に読む | 人の声を中心にした冊子 | どんな人が、どんな思いで働いているかが伝わる話に絞ります |
| 新しく入った社員が、研修で読む | 章ごとに区切った読みもの | 1章を1回の研修で読み切れる長さにそろえます |
| 次の世代の経営者が、判断の参考に読む | 判断の理由を厚く書いた本 | 厚くなっても構いませんが、転機ごとに章を立て、必要なところから読めるようにします |
1冊にすべてを収めず、社外向けの薄い冊子と、社内向けの詳しい記録に分ける方法もあります。費用の考え方は社史の費用で解説しています。
配ったあとの使い道
社史を読まれるものにするには、配ったあとに読む機会を用意しておくことが効果的です。企画の段階で、次のような使い道から1つ以上を選び、担当の部署を決めておきます。
- 入社時の研修:社史の1章を読み、感想を話し合う時間を設けます。
- 採用:面接の前や内定のあとに渡し、会社の考え方を知ってもらいます。使い方は社史を採用に使うで解説しています。
- 会社紹介:新しい取引先との最初の打ち合わせで手渡します。
- 周年の行事:式典や社内の集まりで、歩みを振り返る資料として使います。
- 事業承継:次の世代が、先代の判断の理由を学ぶ教材にします。
- 社内のAI:社史の文章を、社内のAIが参照する資料として渡します。方法は社内のAIに、自社のことを教える方法で解説しています。
使い道を続けるための工夫
- 紙の本とあわせて、社内で読めるPDFを用意しておくと、研修や採用の場で配りやすくなります。
- 発行のあとに起きた出来事を、年に1回、年表と短い記録に書き足しておくと、次の版を作るときの材料になります。
載せる前に確かめること
読まれる社史ほど、多くの人の目にふれます。人の声や写真を多く載せる場合は、次の点を発行の前に確かめます。
- 本人の同意:社員やOB・OGの名前、言葉、顔写真を載せるときは、本人の同意を取ります。退職した人や亡くなった人の扱いも、事前に方針を決めておきます。
- ウェブで公開する場合:紙の冊子よりも広く読まれ、検索で見つかることもあります。社員の氏名や顔写真をウェブに出すかどうかは、冊子とは分けて確認します。
- 写真の権利:誰が撮った写真か、社史に使ってよい取り決めになっているかを確かめます。
- 取引先の名前:取引先の名前や取引の内容は、相手先に確認を取ってから載せます。
著作権、肖像権、個人情報の扱いで判断に迷う場合は、弁護士などの専門家にご確認ください。
無料資料のご案内
読まれる社史を企画するときに使える資料を、無料で公開しています。
- 無料資料「社史担当者のための出版大全」:社長への最初の報告にも使える「最初に決める12のこと」の記入シート、スケジュールの書式、判型・製本・台割の基本、校正の言葉を収めています。
- 無料資料「代替わりの前に残す、記録のチェックリスト」:判断の理由を聞くための質問の全20問と、年表・人物・判断の記録の書式を収めています。
用語の意味は、社史づくりの用語集にもまとめています。
よくある質問
- 読まれる社史にするには、何から決めればよいですか
- いちばん読んでほしい人と、配ったあとの使い道の2つから決めます。この2つが決まると、載せる話、書き方、厚さ、配り方が選びやすくなります。
- 社史が読まれない理由は何ですか
- 読者を決めずに作ったために、出来事を年代順に並べるだけの本になっていることが、原因の1つになる場合があります。判断の理由や人の声がない、厚すぎて読み始めにくい、配ったあとに使う場面がない、といった点も読まれにくさにつながります。
- 社史は、何ページくらいが読みやすいですか
- 読者と読む場面によって変わります。取引先に渡す会社紹介であれば写真年表を中心にした薄い冊子、次の世代が判断の参考にする本であれば厚めの本が向いています。読者が読み切れる分量を先に決め、そこに収まるように話を選びます。
- 集めた材料が多すぎる場合は、どうすればよいですか
- 読者が知りたいことに沿って話を選び、載せない材料は社内の資料として保管します。社外向けの薄い冊子と、社内向けの詳しい記録に分けて作る方法もあります。
- 年表と本文は、どちらを先に作ればよいですか
- 年表を先に作ることをおすすめします。年表の区切りに合わせて本文の章を立てると、年や表記のずれを防げ、年表から本文の該当ページへたどれる構成にしやすくなります。
- 写真には、どのような説明を付ければよいですか
- 撮影した年(分からなければ「〇〇年ごろ」)、場所、何の場面か、写っている人の役割を添えます。人の名前を載せる場合は、本人の同意を取ってからにします。
続きは、無料の資料で
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公開日:2026年10月15日 KATARU(運営 ミダスマーケティング)